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2017年2月

2017年2月28日 (火)

桜は寒暖が必要

気象予報士(株式会社ハレックス)●檜山靖洋

 桜が早く咲くか遅く咲くかは、気温が大きく影響します。春先に暖かければ早く咲くことが多いですが、暖かくても早く咲かないことがあります。
 桜は、夏に花の芽を作ります。秋になると「休眠」といって、花の芽はいったん眠りに入り成長を止めます。冬に寒さにさらされると、眠りから目を覚まし、その後は暖かさで成長し開花します。暖冬により寒さが弱いと、すっきり目を覚まさず、その後、暖かくなっても成長が鈍いことがあります。寝ぼけていると出掛ける支度が進まない人間と同じですね。
 冬には寒さにさらされることも必要です。特に温暖な地域で暖冬になると影響があり、伊豆諸島の八丈島では、開花が遅れただけではなく、満開にならないまま葉桜になってしまった年がありました。
 温暖化が進むと、その他の地域でも、きれいに咲きそろわないことが出てくるかもしれません。

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初めての里山歩き

よこはま里山研究所NORA●吉武美保子・石田周一

 里山と関わることの素晴らしさをご紹介したいと思います。
 家族4人で初めて歩いた里山の散歩道には、ワクワクがいっぱいありました。
 畑の土の色、野菜の緑や黄。芽吹き始めた雑木林は煙ったような薄緑。そして、山桜の薄いピンク。全てが生き生きとしているのです。
 ここに越してきて良かったなと実感しました。都心部から郊外に来たのですが、電車では30分ほどの距離です。ゆったりしていて、便利なお店なども多い街です。その住宅地のすぐ近くに予想以上の豊かな自然があって、驚きました。
 深呼吸すると、それだけでごちそうのように気持ちいい柔らかな空気。畑の黄を指さし「きれいだね、菜の花だよ」と子どもに語り掛けると、後ろから「ありゃ、小松菜だぁ」という声が……。びっくりして振り返ると、くわを抱えたおじさんが笑っていたから、またびっくりです。「そんで、あっちの薄い黄色は水菜。片付けが間に合わないと花が咲いちまうんだよ」と。スーパーでしか見たことなかった野菜が、目の前にあって、ちょっとした衝撃でした。見とれていると、おじさんがそんな花たちを束にして持って来てくれ、「食えないけど、飾れるだろ」。そこには、なんとテントウムシの赤。キラキラ輝いて見えました。息子の手に載せると、小さな命に息子は息を凝らしていました。やがて指先から飛び立つと、姉も一緒に歓声を上げました。
 雑木林からウグイスの気持ち良さそうな歌声が聞こえました。みんなで姿を探したのですが、見つかりませんでした。家に帰り図鑑で確かめました。「スズメ目ってあるよ。スズメの仲間なのかなぁ?」「次の散歩では姿を見たいね」と話しました。そういえば、前の街では灰色のハトくらいしか見掛けませんでした。里山にはいろんな楽しみがあるのです。

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よこはま里山研究所NORA…http://nora-yokohama.org/

地域を豊かに~歩いて楽しめる町2

ノンフィクション作家●島村菜津

 日本を旅すると、つくづく、美しい景観に恵まれたぜいたくな島だなあと実感します。高度経済成長期のスクラップ・アンド・ビルドの時代には、この国では、景観を創るといった視点は、とかく忘れ去られがちでした。ところが、近頃、海外の旅行者が増えたこともあり、観光立国ニッポンという言葉もささやかれるようになりました。そして、ようやく景観を保護し、整えていくことは、地方の活性化に欠かせない要素である、という意識が芽生えてきました。
 そんなことを考えていると、いつも思い出すのが、あるイタリア人のつぶやきです。ジャコモ・モヨーリさんといって、かつてスローフード協会(1986年、世界最大手のハンバーガーチェーン店のローマへの進出を機に生まれた食の多様性を守るボランティア団体。後に北イタリアのブラを国際本部としNPO化)の副会長だった人です。
 そのジャコモさんが、あるとき、熊本県の水俣市に招かれ、2泊3日で、湯の鶴温泉や農家民宿に泊まりました。山村やリアス式海岸の景色をのんびり楽しんでもらうことで、有機水銀公害の地として世界的に知られたこの町が、今では有数のオーガニックの緑茶農家やミカン農家も抱え、ごみのリサイクルも徹底した環境都市として奮闘する姿を、ただ知ってもらおうという企画でした。
 山間地の頭石(かぐめいし)という美しい古民家が点在する集落で、しっとりと朝霧をまとった杉山の光景をしばらく眺めていたジャコモさんは、「日本の山は美しいねえ」と漏らしました。日本人の私は、戦後、杉ばかり植林した山の荒れようが気になりますが、地中海地方で育った人には、東山魁夷の絵画ではないですが、純粋に美しいと映ったようです。
 ところが、それから猛然とけちをつけ始めたのです。「せっかく、これほど美しい石積みの文化がありながら、農家の塀を味気ないコンクリートにするのか」「どうして、きれいに手入れした植木の並ぶ庭の一角をトタンで台なしにする」「なぜ緑の山の絶景を、金属のガードレールで壊す。生え放題の竹で強度の高い物を作れないのか」という具合です。その検閲官のような様子を眺めながら、「なるほど、欧州人は、こんなふうにして地元の景観を整えているのだな」と合点しました。国の予算や法律はもちろん大切ですが、まずは個々の意識。しかし、忘れられないのは、その後のつぶやきでした。
 「こんなに美しい景色がありながら、ここにベンチの一つもないなんて。日本人は都会人に限らず、田舎の人も忙しくて、ゆっくり地元の美しさをめでるゆとりがないのかな」
 内心、ぎくりとしました。世界遺産の絶景や苦労して登った山頂で、ゆっくり景色を眺めても、自分が普段、暮らす地元の美しさは、意識の外に置いていたような気がして。
 まずは、地元の知られざる絶景を探してみてはどうでしょう。そして、そこに眺める場所がないな、と感じたら、ベンチを置くも良し、お茶屋を造るも良し、そうやって、地元をじっくりめでる場を増やしてみてはいかがでしょう。

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熊本県水俣市薄原地区の緩やかな棚田と山の風景(写真上)

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頭石地区の古い蔵を利用した農家民宿。烏骨鶏の卵掛けご飯に始まり、自家製づくしの朝食は最高(写真下)


島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。