パンとビール
食品ロス問題ジャーナリスト●井出留美
2011年、日本の一般家庭におけるパンの消費金額が米の消費金額を上回りました。総務省の家計調査でパンの消費金額が米を上回ったのは1946年の調査開始以来、初めてのことでした。
食品ロスの観点から見ると、パンの廃棄率は食品の中でも高い部類です。広島のブーランジェリー・ドリアンを取材して書いた拙著『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』(あかね書房)の主人公、田村陽至さんは、かつては毎日のようにごみ袋2袋分のパンを捨てていました。珍しいことではありません。コンビニエンスストアでもパン屋さんでもパンの廃棄が起きています。
捨てられるパンを使ってビールを醸造する取り組みがあります。ベルギーのブリュッセルでは、捨てられるパンからビールを醸造する「ブリュッセル・ビア・プロジェクト」が始まりました。
その後、英国で食品ロス削減に取り組むジャーナリストで社会活動家のトリストラム・スチュアート氏は、パン屋で廃棄されるパンを集めてToast Ale(トーストエール)を開発しました。
このような取り組みは他の国や日本でも行われています。デンマークを取材して面白かったのは、パンからビールを造るのと並行して、ヘーゼルナッツのビールを造った後のナッツの搾りかすをパンに使うというものです。
このように、不要になった物に手を加えて付加価値を高めることを「アップサイクル」と呼びます。食品だけでなく、日用品などでもこの取り組みはあります。私がJICA(国際協力機構)海外協力隊の一員だったときに住んでいたフィリピンでは、ジュースの空き袋を捨てずにバッグを作るアップサイクルが行われていました。食品の場合、アップサイクルで生かすのは良いことですが、エネルギーやコストがかかりますので、食材を余らせない取り組みも並行して進める必要があります。
食品ロス問題ジャーナリスト
井出 留美(いで るみ)
株式会社office3.11代表取締役。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。『食べものが足りない!』『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』など著作多数。