« やって実感 部位別基本体操 脚 | メイン | つゆ知らず »

2016年8月30日 (火)

うま味物質と脂肪の役割

日本獣医生命科学大学応用生命科学部教授●西村敏英

 近年、肉が良質なタンパク質を豊富に含む食品として知られるようになり、「高齢者が適量の肉を食べることは健康維持に重要である」といわれるようになりました。65歳以上の世帯主の家庭が1年間に消費する肉の消費量が、この10年で16・7%も増えていることから、「良質なタンパク質=肉」という考え方が一般に広まってきたといえるでしょう。
 肉は幅広い年代に好まれています。生牛肉の香りはほとんどしませんが、加熱すると肉特有の香りが一気に強く感じられるようになります。この香りに加え、味や食感などのさまざまな要因がおいしさに関わっています。一般的においしい肉は、軟らかく、かんだときに肉汁があふれ出て、肉独特の好ましい香りが広がります。この香りを強めているのが、肉汁に含まれているうま味物質であることが分かってきました。かめばかむほど肉汁に含まれるうま味物質が出てきて、肉の味わいが口いっぱいに広がります。
 こくという言葉がよく使われますが、こくは、味、香り、食感などで感じられる複雑な濃厚感、持続性のことです。肉のこくには、脂肪とうま味成分のグルタミン酸やイノシン酸が重要な役割を果たしています。和牛肉の「A5」や「B5」の肉は、霜降りの割合が非常に高いので、とても軟らかく、牛肉独特の風味が強いだけでなく、持続性が感じられます。和牛独特の甘い香りは「A2」「A1」「B2」「B1」では、強く感じられません。また、霜降り肉は、十分に火を通しても硬くならないので、ステーキやすき焼き、しゃぶしゃぶにすると、肉の特徴が出てよりおいしく食べられます。
 肉質だけでなく、個人の好みや調理の仕方でも大きく異なります。例えば「A3」や「B3」で、焼き肉、ローストビーフ、煮込み料理はいかがでしょう。霜降りの割合がそれほど高くないので少し硬めですが、赤身肉のおいしさが味わえる献立です。


西村 敏英(にしむら としひで) 農学博士。著書に『最新畜産物利用学』『食品の保健機能と生理学』などがある。 2003年日本家禽学会技術賞受賞、2004年日本農芸化学会英文誌優秀論文賞受賞。

P31_08oniku_4c