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2017年4月 3日 (月)

休める日本が地方を潤す

ノンフィクション作家●島村菜津

 大分県宇佐市の安心院(あじむ)という農家民宿で頑張っている地域をご紹介したいと思います。
 この町へは『九州のムラ』という雑誌に招かれて、遊びに行ったのが最初です。1980年代からの農家民宿の先進地で、そのきっかけは、そもそもブドウ作りとワイン造りの里として、国もこれを奨励し、張り切っていたところで、安い外国からのワインが輸入されるようになり、300軒近くあったブドウ農家は、一気に80軒ほどに減り、これも先行き不安だというので、ドイツなどの先進地を見学した上で踏み切った一つの策が、農家民宿による活性化でした。近頃、私もとんとご無沙汰していて、これを書きながら心苦しいのですが、子どもが幼い頃には、自然に触れさせたいと、貴重な卵拾いやうどん打ちの経験もさせていただきました。本物の田舎を教えたいと、イタリアの友人たちを連れて行ったこともあります。
 なぜ、ここであらためて、安心院の農家民宿の話をしたいかといえば、それは、日本という国の働き方が、今、もっと良くならなければ、農家民宿は軌道に乗らないからです。地方の活性化には、休める日本が不可欠なのです。
 「安心院のグリーンツーリズム研究会」の会長を務め、ブドウ農家でもある宮田静一さんが、2年前に上京し、大学の専門家たちも巻き込み、何とかメディアを動かそうと四苦八苦しています。「もう連続有給休暇が取れない会社の役員は、処罰を受けるくらいの法的規制が必要です」と宮田さんの言葉に力がこもるのは、1980年代から言い続けても、なかなか変わらないからです。昨今も上場企業の過労死が話題になっていますが、日本では、いまだに年にまとまった休みさえ取れない若者たちがあふれています。
 2011年のデータでは、フランスやスペインの平均有給休暇の取得日数が30日、イギリスやスウェーデンが25日に対し、日本はわずか5日。先進国としては劇的に低いのです。中国でさえ1999年にバカンス法を制定、国内のリゾート地を活性化に導いたそうですし、フランスでは、連続12~24日の休暇という規定を設け、地方の経済に貢献したそうです。1970年に改定された国際労働機関によるILO132号条約では、「年間最低3週間の有給休暇の付与」と「最低2週間の連続休暇の付与」とが義務付けられていますが、日本はまだ批准していません。日本の休み方が変わり、高い交通費がもう少し解消されれば、都市住民に、どれだけ田舎に足を運ぶゆとりが生まれることでしょう。
 日本全国の農家民宿や温泉場、長期滞在型の農村観光を模索する地域は、今こそ、安心院のバカンス法制定の動きに連動し、「もっと休める日本を!」の声を上げるべきです。盆や連休に集中する休暇をもっと分散するだけでも、地方は大いに助かるのです。

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(上)安心院の農家民宿で供された「ウエルカムおにぎり」
(下)「バカンス法制定」に向けて連動しようと呼び掛ける安心院のグリーンツーリズム研究会の宮田静一会長(宇佐市安心院町の宮田ファミリーぶどう園の「巨峰」の畑で)


島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。