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2017年9月

2017年9月 4日 (月)

五感で味わう新米

よこはま里山研究所NORA●吉武美保子・石田周一

 「うわー! おいしい!」。家族の食卓に歓声が上がり、笑顔がはじけました。「ご飯が、お米が、こんなにおいしいなんて!」。みんなで、頬張り、味わいました。誰もがお代わりをしていただきました。
 そのお米は特別なお米でした。
 春から家族で通った田んぼの、いわば「私たち」のお米なのです。さまざまな作業は、体全体を使って体験しました。里山の自然の中で五感が働きました。だから、お米の味も体全体に響きました。
 5月に植えた稲は8月に穂を出し花を咲かせました。稲の花を見るのも初めてでした。そして、次第に色づき、お米の形になり、首を垂れました。
 9月、黄金色になった田んぼで稲刈りがありました。刈り取った稲を束ねて、はさに掛けていきます。こうして干すことで稲がお米になること、そして、脱穀をしてもみ、もみすりして玄米、精米して白米。全てを子どもと一緒に学びました。かけがえのない体験でした。「私たち」が育てたお米といいながらも、私たちが「育てられた」ように感じます。指導してくれた農家や共に汗を流した仲間に感謝です。
 私たちの稲刈りは、バインダーという小さな機械を使って刈った稲束を拾い集め、竹で組んだ足場に干していくものでした。子どもたちを含めて20人以上で1日作業しました。「昭和の稲刈りだなぁ」と農家は笑っていました。バインダーは彼が大事に残している古い機械です。最新式のコンバインは、私たちが大勢で1日かけた面積の稲刈りを1人で1時間もあれば終わってしまいます。しかし、彼も「田んぼは大勢でやった方が楽しいよ」と言います。
 作業は楽しく、お米はとてもおいしかったのですが、稲刈りと脱穀を終え、田んぼから稲がなくなると、なんだか、とても寂しくなりました。

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よこはま里山研究所NORA…http://nora-yokohama.org/

かむことの大切さ

食育インストラクター●岡村麻純

 子どもがいると「よくかんで食べてね」という言葉を口にしたことがあるかと思います。最近は軟らかい食べ物が好まれ、かむ回数もどんどん減っているそうです。現代人が1回の食事でかむ回数は平均約620回、これは戦前の人々に比べると約半分に減っているそうです。しかし、かむことは体に良いことがたくさんあります。
 乳幼児期によくかんで食べることは、顎や体が丈夫になるだけでなく、脳の発達も促します。咀嚼(そしゃく)運動は脳を刺激して、脳細胞の代謝を活発にして脳の血液循環を良くします。つまりよくかむことで、幼児期に必要な栄養素をより多く脳に送ることができるのです。脳神経系などから発達する子どもの発育には、かむことはとても重要です。
 もう一つ、よくかむことで唾液の分泌が良くなります。唾液は消化を助ける役割がある他、発がん性物質の働きを弱める効果があるともいわれています。さらに、唾液の分泌によって味がよく分かるようになります。私たちの舌の表面にある味蕾(みらい)は、唾液で湿ることで味覚を敏感に感じることができます。薄味を食べてほしい幼児期こそ、よくかんで唾液の分泌を促すことで薄味でも満たされることができるのです。
 よくかむといっても、子どもの歯は大人より弱く、かむことにも時間がかかります。そんな中で周りの大人がそそくさと食べてしまっては、子どももできるだけ早く食べようと、かむことを減らす習慣が付いてしまいます。まずは、周りの大人が意識的にゆっくりと食べ、よくかむことで、子どもも安心して大人と同じようによくかむようになります。大人にとっても咀嚼は脳を活性化し、老化やぼけ防止につながります。子どものかむ回数が気になったら、まずは家族みんなで意識的にゆっくり食べてみると良いかもしれません。子どもが飽きないように楽しい会話も忘れずに。

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岡村 麻純(おかむら ますみ) 1984年7月31日生まれ。お茶の水女子大学卒。大学で4年間食物科学を学び、食生活アドバイザーなどの資格を持つ。
公式ブログ:http://ameblo.jp/masumiokamura/