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2017年10月

2017年10月 2日 (月)

お月見を楽しむ

里山と関わる暮らし
よこはま里山研究所NORA●吉武美保子・石田周一

 「子ども会のお月見会、行ってみる?」
 十五夜です。薄暗くなった空にぽっかりとお月さまが顔を見せてくれました。でも、ほんのちょっと真ん丸じゃない。
 「あれ? 満月じゃないの?」
 「満月は明後日だって。暦のズレなんだって。ま、難しいことは後にして行ってみようよ」
 お月見会の会場になっているお宅の縁側にはお月見飾りがありました。15個のお団子がきちんと盛られ、栗やサトイモ、なぜかお豆腐が一緒にお供えされています。一升瓶にはススキや野の花。風にほのかに揺れてとても趣があります。定番のお供え以外にもいろんなお菓子が竹籠に入っていました。
 「お月見はね、子どもたちの夜のお楽しみなの。よそのおうちでお供えしてある物をもらってもいいの。十五夜さまは芋名月といって、サトイモが収穫できる頃だからそう呼ばれるのだけど、もらえる物がサトイモや栗だけじゃ子どもたち喜ばないでしょ?」
 庭先にマークが付けてあるお宅には、公開されているお月見飾りがあって、お菓子をいただける仕組みだそうです。
 家族で月明かりに照らされながらお散歩。影踏みをしたり、月のウサギの餅つきのまねをしてみたり。子どもたちは伺ったお宅でお菓子をもらって楽しそう。これって、ハロウィーン? どちらにしても、秋の収穫を感謝するお祭りであることは同じですね。最初の会場に戻ったら、「十三夜もお飾りしてね。十五夜だけしかしないのは、片見月といって縁起が良くないの」。古来から月をめでる風習があるのは、とても豊かだと感じました。コオロギの鳴き声も音楽のように聞こえたのでした。

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よこはま里山研究所NORA…http://nora-yokohama.org/

お弁当のバランスの取り方

管理栄養士・雑穀料理家●柴田真希

 だんだんと涼しくなり、夏場は控えていたお弁当作りを再開する方もいらっしゃるのではないでしょうか。午後からの大切なエネルギー源となるので、しっかりとバランスを取りたいものです。今回はお弁当作りで注意したい点をご紹介します。
 まずはご飯とおかずの割合を6:4にすること。ついついおかずたっぷりにしがちですが、しっかりとご飯がないと腹持ちが悪くなってしまいます。ご飯は胚芽米や雑穀ご飯にして、質を良くすると、食物繊維やミネラル・ビタミンも補給され代謝も良くなります。また、お弁当の定番・梅干しを入れれば抗菌作用も加わり、さらにクエン酸で疲労回復の効果も期待できます。
 しっかりとご飯を入れたら次はおかず。まずは主菜となる肉・魚・卵・豆製品がメインとなるおかずを用意しましょう。これらでタンパク質は補給され、肌や髪、血液などが作られます。
 そして、野菜やきのこ、海藻、芋類のサブおかずを用意します。おかずはたくさん用意しなくてもよいですが主菜よりも副菜を多めに入れるとバランスを取りやすくなります。最後に気を付けたいのは色合いです。赤、緑、黄、白、黒(茶)の5色を満遍なく入れるようにしましょう。こうすることで栄養のバランスが自然と整いやすくなる他、お弁当のふたを開けたときに「おいしそう!」と感じます。消化はおいしそうと感じるところから始まります。唾液が分泌され、胃腸も受け入れる準備を始めることで消化吸収を促してくれるのです。
 ついつい「おにぎりだけ」や「肉がメイン」となると単色になりがちに。ミニトマトやゆでたブロッコリーは定番ですが、簡単に野菜がプラスできるアイデアです。彩りも考慮して栄養満点のお弁当作りを心掛けてくださいね。

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柴田真希(しばたまき) 株式会社エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。管理栄養士、雑穀料理家、フードスペシャリスト、1級惣菜管理士、健康食育シニアマスター、漢方養生指導士(漢方スタイリスト)。著書に『女子栄養大学の雑穀レシピ』(PHP出版)『おなかやせ定食』(主婦の友社)などがある。

原点忘れず、発信し続けること

ノンフィクション作家●島村菜津

 山形県鶴岡市郊外にあるイタリア料理レストラン「アル・ケッチァーノ」は、地域の活性化といえば最初に名の挙がる店です。その料理は、常に鳥海山と出羽三山に見下ろされ、日本海に臨む鶴岡の自然と、地元の生産者との深い付き合いの上に成り立っているからです。
 シェフの奥田政行さんは、和食を手掛ける両親の元に育ち、東京のイタリアンやフレンチで修業後、24歳で帰郷。ホテルの料理長などを任された後、2000年に独立。やがて「イベリコ豚など海外の珍しい食材を取り寄せていたけれど、本当においしいものは足元にある」と気付きます。翌年からは、地元のタウン誌で、地元の在来種を守る農家を巡る連載も任され、生産者とのつながりをさらに深めます。
 数年後には、鶴岡に東京の食通たちが大挙して押し掛ける店があると話題になり、『情熱大陸』(TBS系列テレビ局で放送)で紹介されます。やがて、東京・銀座の物産館2階「ヤマガタ サンダンデロ」やスカイツリーにもプロデュースした「ラ・ソラシド フード リレーションレストラン」を出店。各地での講演やテレビ出演も増え、ひと頃は、あまりの忙しさから肝臓を痛めて入院したそうです。無理をしてはいないかと、ある対談で率直に伺ってみると、奥田さんは、きっぱりとこう返しました。
 「僕が応援してきた在来種やおいしい肉の農家の息子たちが、後を継ぐって言いだしたんです。そうなったら彼らも年に最低400万円は稼げるようにしたい。それまで、僕はまだ止まれないのです」
 数々の出店も、山形食材のマーケティングの場を増やしたい一心でした。体をいたわってほしいのはやまやまですが、その言葉を耳にして、私も納得がいきました。
 そんなことがあった昨年の秋、ある対談の場で、奥田さんに『食べもの時鑑』(フレーベル館)という本をいただきました。
 早速帰りの新幹線で読み始め、一気に引き込まれました。奥田さんのあふれる郷土愛と独自の料理哲学を説く文面も、魅力的です。奥田ファンの作家は多く、これまで「アル・ケッチァーノ」の試みを紹介した書籍は、10冊を下らないですが、この豪華本は、郷土という原点にもう一度返っていくような決定版でした。
 皿の上の小さな世界が、そのまま壮大な自然美に呼応しています。美しい料理が、四季折々の表情を見せる山形の自然、その中で在来のカブを育て、湧き水でカキを養殖する人々への敬意の念そのものでした。
 美しい写真を手掛けた長谷川潤さんも、東京から鶴岡への移住者で、9年かけて写真を撮ったそうです。その『食べもの時鑑』が、今年5月、フランスの「グルマン世界料理本大賞」を受賞しました。授賞式は、中国山東省の煙台です。
 鶴岡市や山形県にとっても、これほど地域の豊かさをアピールしてくれる一冊はないでしょう。地域の活性化を語る上で、一軒の店の存在力をまざまざと見せつけた今回の受賞でした。

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8年ほど前から、県道沿いのカフェを居抜きで使っている「アル・ケッチァーノ」と奥田政行さん。黒板には、その日のメニューがびっしり

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奥田政行著『食べもの時鑑』

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『食べもの時鑑』の在来野菜・平田赤ねぎ紹介のページ

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。