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2017年11月

2017年11月30日 (木)

寒さに負けないユズ

気象予報士(株式会社ハレックス)●檜山靖洋

 12月22日は二十四節気の「冬至」です。太陽の高度が1年の中で最も低くなり、太陽の光が頼りなく感じられます。昼間の長さが1年の中で最も短い日としても知られています。冬至を境に昼間の長さが長くなり始めることから、太陽が生まれ変わる日ともされています。
 冬至にはゆず湯に入る風習がありますね。ゆず湯に入れば、寒い冬に風邪をひきにくくなるといわれます。そんなユズは、高知県など四国地方が主な産地です。かんきつ系の果実だけあって、やはり温暖な所で作られるのかというとそうでもなく、高知県でも山間部の冷え込みの厳しい所が多いようです。ユズはかんきつ系の中では寒さに強く、東北でも栽培できるそうです。寒さの中でも育つユズを浮かべた湯につかれば、寒さに強い体になれそうです。冬至にゆず湯、「ゆず」れない行事の一つです。

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暮れの仕事

よこはま里山研究所NORA●吉武美保子・石田周一

 最近、紅葉が遅くなって、12月中旬になっても広葉樹の葉が落ち切らないそうです。それでも暦通り年は暮れます。
 農家のそばを通り掛かると、何やらザザーッと、海の波のような音が響いています。
 「落ち葉が少ないんだけどね。くず掃きはしておかないとお正月が迎えられないのよぉ~」と、お宅の裏山でお母さんが笑いながら叫んでくれました。子どもがすっぽり入れそうな竹籠に、普段見るよりも一回り大きな熊手で集めた落ち葉を詰め、それを背負って堆肥置き場に行ってひっくり返し、プリン形となった落ち葉をならして踏み込んでいます。
 誘われて、首にタオルを巻きマスクと軍手を持って、いざ「くず掃き」へ! 斜面で踏ん張り、体中が熊手と一体となったような感覚で落ち葉を集めます。お母さんの手順と同じように、竹籠に詰め、堆肥置き場でひっくり返し、ぎゅうぎゅう踏み込んで。子どもたちもやって来ると、落ち葉の上がトランポリンのようになりました。寝転がってみたら、空が青くて広いこと! 落ち葉をかいた場所では、ルリビタキが虫を探しに来ていました。
 一休みで土間に行くと、トントンとおじいさんが稲わらを木づちでたたいています。正月飾りの締め縄や輪飾りを作る準備です。ユズリハもウラジロも庭にあるので買わなくてもいいそうです。里山ではそれが当たり前。暮らしに必要な物は、家の周りで調達できるように手入れがされているそうです。
 「あさっては餅つきよ。またお手伝いに来てくれる?」
 もちろんです(笑)。自分の家の大掃除はほどほどに、正月を迎えるという「行事」を経験できることがうれしいのです。

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よこはま里山研究所NORA…http://nora-yokohama.org/

ハタハタ、本物のしょっつるをいただく男鹿半島の旅

ノンフィクション作家●島村菜津

 2006年の冬、イタリアで盛んな地域食材に焦点を絞ったツアーに感化されて、試しに、日本でもやってみようということになりました。初の試みなので、できるだけマスコミ関係の友人たちに声を掛けて8人ほどを募りました。そして相談を持ち掛けると、秋田のスローフード協会の2人が、ボランティアで1泊2日の旅の案内を引き受けてくれたのです。
 でもなぜ、ハタハタなのでしょう。それは、男鹿半島では乱獲によってハタハタが激減し、一度は絶滅さえささやかれましたが、漁師たちがあまたの合議の末、3年の禁漁に踏み切り、復活を果たしたというのです。
 12月のごく限られた時期にだけ見られる漁の光景は、圧巻の一言でした。沿岸漁とはいうものの、冬の日本海は青くうねり、見ているだけで引き込まれそうです。しかも20kgものハタハタを積んだ箱を勢いよく運ぶ漁師たちの平均年齢は、当時74歳。頭の下がる光景でした。そんな場面を脳裏に刻んでいると、研究者の杉山秀樹さんが、ハタハタに魚偏に神という字を当てる理由を教えてくれました。
 「昔、雷のことをハタタガミと呼んだんだ。晩秋、雷が鳴り、海が荒れて、水温がぐっと下がると、250mもの深海からハタハタは必死の思いで産卵のために藻場へとやって来る。こつぜんと現れる神の恵みというわけなんだ」
 ところが、その天の恵みを毎年、一網打尽にしていたのが激減の主な理由でした。それにしても、漁師による自主的な3年もの禁漁は、世界に誇るべき資源保護の事例だそうです。そのかいあって、ツアーの前年には約3000tの水揚げがありました。
 ところで、旅に忘れられない思い出を刻むのは、やはりおいしい料理です。地元の食通が半島自慢の「亀寿司」で用意してくれた絶品料理は、朝、入荷した日だけの限定品であるハタハタずし、雄の一夜干しの焼き物。それにハタハタとネギだけの潔いしょっつる鍋でした。
 鍋にたっぷりと注がれるのが、本物のしょっつる。やはり20年越しでこれを復活させた「諸井醸造」見学が、ツアーのもう一つの見どころです。大豆のしょうゆ造りを軸としてきたこの店の、このままでは大手に太刀打ちできないと再生の望みを懸けたのが、幻のしょっつる造りでした。使うのは塩とハタハタだけ、後は木だるに仕込んで最低3年待つだけ。こうして復活した魚醤(ぎょしょう)は、洋食の隠し味にもなる上品な味わいが受けて、今や待望の10年物も人気です。
 ツアーの断片は、新聞や環境サイトのコラムにもなり、地元に小さな恩返しもできました。流通や冷凍技術がいくら発達しても、現場でいただく味に勝るものはない、とあらためて実感させられた旅でした。単純に見えて、食文化を育む大自然の風景、働く漁師たちと加工職人、これらを深く愛してきた地元の食通たちの助言という、いく層にもなった食文化へのアプローチが、ツアーをスリリングで特別なものにしてくれました。おかげで、神の魚のおいしさは私の中に強く刷り込まれ、今も都心でしょっつるやハタハタを目にすると、つい手が伸びてしまうのです。

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3年の禁漁から復活したハタハタ

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冬、青くうねる日本海

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本物のしょっつるを復活させた諸井醸造の諸井秀樹さん


島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。


2017年11月 1日 (水)

小雪、冬の第2小節へ

気象予報士(株式会社ハレックス)●檜山靖洋

 11月22日は二十四節気の「小雪(しょうせつ)」です。気温が下がってきて雪がちらつき始める頃という意味です。初雪の平年日は、北海道では10月下旬の所が多く、東北北部で11月の前半、東北南部や北陸は11月後半で、まさに小雪のころとなっています。関東から西は12月以降の所が多いですが、2016年には東京で11月24日に積雪を観測するなど、いつもより早い雪が話題になりました。
 雪が降るときの上空の気温は、1500m付近でマイナス6度以下、低気圧が通る場合は、これより高くても雪になることがあります。11月初旬、立冬を過ぎると冬型の気圧配置となり、冬の季節風が吹き冬が始まります。そして、雪がちらつき始める所が増えるのが小雪です。冬のリズムは、小雪を過ぎると、第2小節といったところでしょうか。

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便秘解消にヨーグルトよりご飯食

管理栄養士・雑穀料理家●柴田真希

 寒くなってくると、冷えが原因の便秘が増えるといわれています。便秘予防にヨーグルトを食べるという方法もありますが、朝から冷えた体に冷たいヨーグルトを食べると余計に体を冷やして改善につながらないこともあります。ヨーグルトには乳酸菌が含まれていてこれが腸内環境を整えてくれるのですが、乳酸菌はヨーグルトだけに含まれているものではありません。
 例えば、調味料のみそ。みそ汁の他、さまざまな料理に利用されますが、みそは大豆を米や麦などのこうじを使い、発酵させて造るので、乳酸菌が含まれています。ダイコンやキュウリなどをぬか床に入れて発酵させて作るぬか漬けなどのお漬物にも含まれています。
 ヨーグルトのような動物性乳酸菌に比べ、みそや納豆、ぬか漬けのような植物性乳酸菌は酸に強く生きたまま腸に届くのが特徴です。腸内での生存率も植物性乳酸菌は動物性乳酸菌の10倍ともいわれています。効果としては、便秘の改善だけでなく、免疫活性作用、発がん性物質の排出・分解、病原菌感染の予防などが挙げられます。
 そしてこの効果を上げてくれるのが、ご飯や野菜などに含まれるオリゴ糖。乳酸菌の餌となり、腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する効果が期待できます。
 納豆も納豆菌で作られる発酵食品で便秘などの改善に役立ちます。まさに朝食でご飯、野菜たっぷりのみそ汁、納豆、ぬか漬けといったシンプルな和食はおなかの調子を整えてくれるのです。
 そして、パンに牛乳、ヨーグルト、サラダのような洋食よりも和食の朝ご飯の方が食べた後、体が温まりそうですよね。朝は和食にすることで便秘と冷えを改善し、この冬を乗り切りましょう。

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柴田真希(しばたまき) 株式会社エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。管理栄養士、雑穀料理家、フードスペシャリスト、1級惣菜管理士、健康食育シニアマスター、漢方養生指導士(漢方スタイリスト)。著書に『女子栄養大学の雑穀レシピ』(PHP出版)『おなかやせ定食』(主婦の友社)などがある。