« 2017年11月 | メイン | 2018年1月 »

2017年12月

2017年12月27日 (水)

縦じまの天気図

気象予報士(株式会社ハレックス)●檜山靖洋

 テレビの気象情報では、天気図で気圧配置の解説をすることがあります。その中で、最も一般に広く知られているといってもいいのが「冬型の気圧配置」ではないでしょうか。大陸に高気圧、日本の東に低気圧、西高東低となり、等圧線は縦に数多く並びます。冬は、この縦じまの天気図になることが多いです。
 冬型の気圧配置になると、全国的に北西の風が吹き寒くなります。日本海側は雪が降り、太平洋側は晴れの天気となります。暖冬傾向の冬は、等圧線が縦じまに並ぶことが少なくなります。冬型の気圧配置が長続きせず、寒い日が少なく、日本海側の雪の量も少なくなります。このようなときは、等圧線が横になって並び、横しまになることもあります。冬の典型的な形から外れているということで、私はこれを「よこしまな天気図」と呼んでいます。

P34_12otenki_4c


大掃除と災害対策

災害危機管理アドバイザー●和田隆昌

 年末が近づくと、多くのご家庭で一斉に大掃除が行われると思いますが、家具を動かすこの時期に、災害対策の見直しをやってみてはいかがでしょうか。
 2016年の熊本地震では、人的被害の発生した木造家屋を検証すると、そのほとんどが1階部分の倒壊によるものでした。これは木造家屋は2階部分の重量によって家屋が倒壊してしまうためであり、実際の現場を見ても明らかでした。
 耐震性が低いと考えられる2階建ての木造家屋では、なるべく寝室を2階に配置するよう指導するのはそのためです。また、2階に重量のある書庫などの荷物を詰め込むことで、家屋の耐震性が大きく損なわれることになることも知っておきましょう。事前に2階の荷物の整理をやっていたために倒壊を免れた、という事例も存在します。断捨離が命を救うということもあるのです。
 過去の大きな地震発生時には、家具が凶器となって人に被害をもたらすケースが数多く発生しています。家具の配置換え、固定などの見直しなど、まずは寝室だけでもやっておくことが家族の安全を図るのにとても有効です。さらに大切なのが避難経路の確保です。地震や火災の発生時に、廊下や玄関、またはベランダなどに退路をふさぐような荷物があると避難が遅れ、生死に関わります。マンションなどの集合住宅では玄関へと避難できない場合、ベランダ方向の避難経路も必要です。先日、消防士さんとの会合の中で「火災現場で被害が大きくなる家は、荷物が整理整頓されていない家が多い」というお話を聞きました。コンセントなどにほこりがたまることで、火災が発生することもあります。年末に限らず、日々の整理整頓は災害被害から身を守ることにつながることを知っておきましょう。

P29_12bousai_4c

和田 隆昌(わだ たかまさ) 災害危機管理アドバイザー。アウトドア雑誌の編集者の経歴を生かし、主に自然災害の防災対策を専門とする。各種団体や地域の団体と協力し民間側における現実的な防災対策を提唱。

世界でそこにしかない在来野菜の強み

ノンフィクション作家●島村菜津

 山形県米沢市が、数年前からモニタリングツアーを始めているのが、地域の食文化に特化したフード・ツーリズムです。しかも、長い歳月、地元の農家が種取りを続けてきた伝統野菜を、ツアーの目玉にしているのです。
 山形県には、山形大学農学部の先生方が立ち上げた「山形在来作物研究会」があります。この地域の豊かさを最初に教わったのは、その野菜の専門家、江頭宏昌先生と果実を専門とする平智先生でした。十数年前、お二人の案内で、山形各地に残る珍しい在来作物を見せていただいた折、特に衝撃を受けたのが、米沢市上長井地区の雪菜でした。畑だと案内されたのは雪原で、スコップで掘り起こすと中からつややかで、ほんのり黄緑がかった白い雪菜が現れます。
 これは雪の中で育つ軟白野菜の一種です。正確には、遠山カブがとう立ちしたもので、わざわざ秋に植え替えをします。しかも雪の中から掘り出したカブの花芽は、傷んでいる外側をどんどん落とすので、歩留まりも悪い。けれどもその花芽には、他の野菜にはない歯切れのよい食感と風味があったのです。
 生でも楽しめますが、3~4cmに切り、豚肉としゃぶしゃぶにするとまた香ばしくなって格別です。さらに地元では、「ふすべ漬け」という漬物にします。「ふすべる」とは方言で、さっと湯に通すことで、そうすると独特の辛味が出ます。ツアーのトリは、この雪菜の畑見学。どんな作物にも作る苦労はありますが、その点、この雪菜の畑ほど、それが伝わる現場はそうありません。地元のおばさんに、ふすべ漬け作りも教わりました。
 また、宿泊は、米沢の奥座敷と呼ばれる小野川温泉。その小さな温泉場の真ん中に立つ怪しげな青テントをのぞくと、そこは丸太とわらで作られた室で、温泉熱を利用した豆モヤシの栽培現場でした。暗いうちに起きだし、終始、腰をかがめての収穫作業には、本当に頭が下がりました。雪菜は、10軒ほどの農家が出荷もしていますが、江戸末期から続く豆モヤシの後継者はその半分。その希少な食文化を守ろうと、自治体も乗り出しました。それらの味わいと現場の磁場に引き寄せられるように、気が付けば米沢市にも5回も足を運びました。
 さらにツアーでは、造り酒屋での試飲やみそ造りと盛りだくさんでした。雪の季節にこそ味わえる在来作物のフード・ツーリズム。その世界でここでしか味わえない希少さは、グローバル化する現代において圧倒的な引力があります。そして、ただ珍しいだけでなく、現場の苦労も理屈抜きに分かる旅は、雪景色の残像も相まって、私のようなリピーターを育てること受け合いです。山形県の在来種はまだまだあるだけに、有望です。

P22_12chihousousei_a_4c_2

雪をかき分けて掘り出すと雪菜が現れる

P22_12chihousousei_b_4c

収穫された雪菜

P22_12chihousousei_c_4c

温泉熱を利用して栽培する豆モヤシの収穫


島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。