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2019年10月30日 (水)

ナベヅル

ナベヅル

●日本生態系協会

 日本を代表する鳥といえば、「ツル」は上位に来るのではないでしょうか。白く美しい姿で、頭のてっぺんが赤い、あのタンチョウをはじめ、世界に全部で15種いるツルのうち、なんと約半分の7種が日本に飛来していることはあまり知られていません。日本は世界を代表するツル大国なのです。
 ツルは、日本全国の水田などに餌を食べに訪れる身近な存在で、民話にもよく登場しています。江戸期には幕府が天皇家への献上品としていたため、特別な存在でもありました。
 特に、鍋のススがかかったように見えるその姿から名付けられたナベヅルは、繁殖地のロシアや中国などから秋に日本や韓国などに渡って越冬する全長90~100cmほどの小型のツルで、日本が世界最大の越冬地です。しかし、明治以降は狩猟が一時的に野放しになったことや、人々の暮らしが変化し、ツルたちが好む水田や湿地、谷津などの環境が失われていき、すみにくい状況になってしまいました。
 現在、世界にいるナベヅルの8割以上に当たる1万羽以上が鹿児島県の出水市に飛来しています。その大群は圧巻ですが、1カ所に集中してしまうと、あぜ崩れや食害などの農業被害(現在は効果的な対策が取られています)や、鳥インフルエンザなどの感染症による絶滅の危険性が心配されます。これを受け、環境省による生息地分散の検討が行われています。地域の農家の方をはじめとした住民の協力を得て2番穂や生き物が豊かになるツルに配慮した農法を行ったり、寝ぐら環境を整えたりすることで、最近ではかつての生息地だった和歌山県から中国・四国地方でも、その姿が見られています。
 ツル大国・日本に住んでいても、彼らを見たことがない人も多いのではないでしょうか。生き物にも配慮した農業を心掛けることで、動物園や図鑑の中の存在ではない、本当の姿を、あなたの町でも見られる日が来るかもしれません。

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