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2017年1月

2017年1月31日 (火)

春一番

一般財団法人日本気象協会●檜山靖洋

 春一番は、季節が冬から春に変わるころに初めて吹く暖かい南寄りの強い風のことです。春一番の条件は、立春から春分までの間に、日本海で低気圧が発達し、風速8m以上の南寄りの風が吹き、気温が上がる現象です。この春一番は、九州から関東、北陸の各地方で発表されます。この時期に春一番という季節感が合わない東北や北海道、沖縄では発表していません。
 春一番は春の到来を告げるものですが、もともとは長崎県の漁師が春の強い風により被害を受け、その春の風を春一番と呼んで、恐れたということです。
 この時期、冬の寒気が残る中、時折春の暖かい空気が流れ込みます。すると、寒気と暖気がぶつかり合い、低気圧が発達し風が強く吹きます。時には猛烈に低気圧が発達し、暴風が吹き荒れることもあります。これから春は風が強い日が多い季節です。

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腰痛とストレッチ

佐久総合病院名誉院長●松島松翠

 同じ姿勢を取り続けたり、運動不足で筋肉を動かさずにいると、「腰痛」「肩凝り」「疲労」「頭痛」などが生じます。こうした痛みを予防したり、凝りをほぐすためには、筋肉や関節を伸ばすストレッチが有効です。
 ストレッチとは「伸ばす」という意味ですが、筋肉や関節に強い痛みがある場合、最近手術を受けたとか、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害を起こしたことがある場合には、まず主治医に相談してください。
 腰痛の場合、どんなストレッチ体操が良いかというと、一つは股関節や腰、背中を伸ばすストレッチで、「足裏で合掌ストレッチ」というのがあります。
 これは、床に座って膝を曲げ、体の前で足の裏を合わせるようにし、両手で足先を持ちます。背筋を伸ばしたまま、右膝の方にゆっくりと前屈し、10秒間静止してから元に戻ります。同様に左側でも行います。膝や関節が痛い場合には無理に行いません。
 もう一つ、腸腰筋や太ももの裏側の筋肉を伸ばす「膝抱えストレッチ」というのがあります。
 あおむけになり、左の膝頭を両手でゆっくりと胸に引き寄せます。10秒間静止してから、ゆっくりと元に戻します。右脚でも同様に行います。
 腰痛のある人には、腰の骨と太ももの骨をつなぐ「腸腰筋」が常に緊張状態にあり、背骨の腰の部分が反り過ぎている人がいます。ストレッチで腸腰筋をほぐすと、背骨の反りがやわらぎ、腰痛の改善に効果があります。
 分からない点は、整形外科を受診し、専門医から指導を受けてください。

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地域を豊かに~歩いて楽しめる町

ノンフィクション作家●島村菜津

 車社会は、私たちの暮らしに計り知れないダイナミズムをもたらしました。私は、こんな仕事をしているのに免許を持っていません。従って、自分の本の取材をする際には、長距離バスや電車が頼りですが、雑誌などの取材の場合には、車をチャーターして効率良く回ることができます。興味のある農家民宿や山中のおいしい食堂に行こうと思えば、車がなければ無理です。日本でも、地方の小さな山村や農家民宿が今後、もっと潤っていくには、車というツールは必要不可欠です。
 しかし、昨今の高齢者の運転ミスによる悲劇的な事故の多さを考えると、現代社会は、車というツールとの付き合い方をもう一度、考え直し、子どもやお年寄りが安全に暮らせる空間をつくり直していく時代が来ているようです。日本でも、車がなければ日用品も買えないような町や村ばかりになり、運転できないお年寄りは買い物難民になる。そんな町や村の形を見直し、車や公共交通手段との良い関係を模索することが急務です。
 そんな中、イタリアのフィレンツェとローマをつなぐ鉄道のちょうど真ん中に位置するウンブリア州の古都オルヴィエートの駐車場がヨーロッパでも注目されています。
 オルヴィエートは、断崖絶壁の台地の上に立つ街です。その天然の要塞(ようさい)のような自然条件のせいか、古代ローマ帝国に滅ぼされるまでは、先住民エトルスク人の聖地だったといわれています。住宅地などを周辺に広げるわけにもいかない街に、車があふれれば、当然、幼い子どもたちにはぜんそくが増え、ルネサンスのころから変わらない狭い道では、観光客も壁に身を寄せて車をやり過ごさなければならないわけです。
 そこで、この街では、あえて地下に約600台もの車が収容できる駐車場を造ったのです。幸いこの街はもともと無数の地下通路や洞窟だらけだったので、駐車場と通路の中には、古代のそれをそのまま再利用したものもあります。
 商店やホテルを営む住民の車は、どうしても地上を走るので、ヴェネチアのような静寂とまではいきませんが、住民でない者は、まず車を地下駐車場に停めて、街はゆっくりと歩いて楽しんでもらおうというわけです。こうして狭い道は、空気も騒音もかなり抑えることができ、そうすることで、地元の子どもやお年寄りもこれまで通り散歩を楽しめます。
 そして、地下に車を隠してしまうことで、守られたものがもう一つあります。自治体は、駐車場が完成した後、何年もかけて城壁の周りの遊歩道を整備し直しました。早朝や夕刻、この道を歩くと、街を取り巻くなだらかな丘の眺めが楽しめます。緑の丘に、所々に古い修道院や農家、イトスギやオリーブ畑が点在しています。ここには、1985年から5回ほど足を運んでいますが、新しい住宅が並ぶ一角ができただけで、その風景は、ほとんど変わっていません。当初は、丘を切り開いて平らなコンクリートの駐車場にする計画もあったそうですが、それだけは阻止したかったんだよ、と誇らしげに役場の人が教えてくれました。

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地下駐車場は、これといったデザイン性もない、ただの四角な空間だが、そこまでの地下道は、ちょっとスリリングで楽しい

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城壁に沿って続く遊歩道と、周囲の丘の眺め。オルヴィエートには長いこと通っているが、この風景を30年以上も維持しているのは立派


島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。