2016年5月27日 (金)

豚の種類とおいしさの特徴

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日本獣医生命科学大学応用生命科学部教授●西村敏英

 ビタミンB1が豊富な豚肉は、日本の食卓には欠かせない身近な存在です。スーパーなどの食肉売り場では、三元豚、SPF豚、黒豚など、さまざまな表示の豚肉が並びます。
 三元豚は、肉質の良い雑種の豚を作るために、複数の品種を掛け合わせています。その中でも特定の地域や牧場で独特の方法で育てられている三元豚は、肉質や味に違いがあり、ブランド豚として扱われています。
 SPF豚とは、特定の病原菌に汚染されていない、清浄な環境下で飼育された健康な豚です。黒豚は、きめ細かい肉質で風味が良いかごしま黒豚、沖縄のアグーなどが有名です。最近ではドングリだけを食べさせて育てたスペインのイベリコ豚、ハクサイやお茶の葉を発酵させて作った餌を食べさせて育てた中国の金華豚など、風味や香りの良い豚肉も見掛けるようになりました。
 日本の東京で生まれた東京Xという新しい銘柄の豚肉もあります。かごしま黒豚・北京黒豚・デュロック種を掛け合わせた豚肉です。大きな特徴は、他の豚肉の2倍のビタミンを含んでいることです。生産量が少ないため入手困難ですが、東京都内のデパートの食品売り場や限られたレストランで食べられます。
 豚肉の部位は、ロース、モモ、ヒレ、バラなどがあります。ロースは、赤身と脂身が霜降り状になっていて風味が抜群で、どんな料理にも使えます。モモは、ソテー、酢豚やカレー、シチュー、八宝菜などがお薦め。ヒレは柔らかく、ビタミンB1が豊富。ヒレカツ、ソテーに向いています。バラは、脂身が多く敬遠されがちですが、豚の脂肪にはコレステロールを低下させるオレイン酸やステアリン酸が含まれています。ブロックは角煮やカレー、薄切りは豚汁や炒め物など、調理法を工夫するとお年寄りも食べやすくなります。
 さまざまな種類の豚肉を、食べ比べてみると違いが分かります。好みの豚肉を使って、食卓を豊かに彩りましょう。


西村 敏英(にしむら としひで) 農学博士。著書に『最新畜産物利用学』『食品の保健機能と生理学』などがある。 2003年日本家禽学会技術賞受賞、2004年日本農芸化学会英文誌優秀論文賞受賞。

歯の健康と8020運動

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佐久総合病院名誉院長●松島松翠

 ここに出てくる8020運動(はちまるにいまるうんどう)という言葉は、わが国で展開されている歯の健康づくりのための運動のことで、「80歳になっても20本以上の歯を常に保持していよう」ということを目標にしています。
 歯が抜けてしまうのは、虫歯と歯周病が主な疾患です。ほとんどの人が毎日歯を磨いていますが、多くの人は虫歯になったことがあり、歯周病の疑いがある人も約8割に上ります。これは歯磨きのやり方が悪く、きちんと磨けていないことを示しています。
 虫歯と歯周病を防ぐために、歯に付く汚れである歯垢(しこう)をしっかり取り除くことが必要です。そのためのポイントとしては、歯と歯茎の間に、毛先がしっかり入るくらいの力で磨きます。磨く力が弱過ぎると歯垢がうまく取れません。
 歯周病を防ぐためには、歯と歯茎の境目を意識して磨きます。歯と歯茎の境目は、歯垢がたまりやすく、歯周病が起こりやすい場所です。
 歯の内側も一本一本丁寧に磨きます。最も磨き残しが多いのは歯と歯の間です。タフトブラシや歯間ブラシも使ってみましょう。
 どんなに丁寧に歯を磨いても、本当に磨けているかどうかは自分では分かりません。そこで重要になるのが歯科での定期検査です。歯科での定期検査では、虫歯の検査、歯周病の検査、歯石の除去などが行われます。積極的に受診してください。
 歯垢が硬くなったのが歯石で、歯磨きでは除去できないため歯科で取り除く必要があります。
 虫歯は1年に1~2回、歯周病は約3カ月置きに定期検査を受けるといいといわれています。

2016年4月26日 (火)

こいのぼり

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一般財団法人日本気象協会●檜山靖洋

 こいのぼりの季節になりました。大きなこいのぼりが、ダイナミックに空を泳ぐ姿は優雅です。こいのぼりに似たもので、道路沿いや工事現場などに吹き流しがあります。
 吹き流しがほぼ真下に垂れ下がっているときは、ほとんど風がないか、せいぜい風速2m毎秒くらいのそよ風です。斜め45度の角度になっていればだいたい5m毎秒以上の風、真横になっているときは10m毎秒以上吹いていることになります。吹き流しが真横になっているとき、車の運転は注意する必要があります。
5月は低気圧が発達し、時に「メイストーム」と呼ばれるような暴風が吹き荒れることもあります。こいのぼりが、あまり大きく暴れ回らない天気がいいですね。ところで、こいのぼりの季節になると、高速道路沿いの吹き流しが、こいのぼりになっている所もあるようです。粋な計らいですね。

オクラ~手軽にできる有機ベランダ栽培

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明治大学特任教授●佐倉朗夫

 オクラは暑さに強く日本の夏には最適です。他の野菜が夏バテする中で青々と生育し、10月上旬まで栄養豊富な実と黄色いきれいな花を楽しませてくれます。さらに、害虫被害を抑制する効果も期待できるので、夏の有機コンテナ栽培の一つはオクラにしましょう。
 種まきは5月に入り地温が上がってから行います。購入苗を植えてもよいですが、直根性のために植え傷みすることもあります。オクラの種は皮が堅いので、一晩水に漬けてからまくと発芽が良くなります。
 まず、コンテナの土に、缶コーヒー(200ml入り)の空き缶などを使い、深さ1cmの種をまくくぼみを付けます。間隔は15cmで、コンテナの長さが60cmの場合は4カ所にまくことになります。種は1カ所に4粒まき、周りの土を寄せて種の上に薄く掛け(覆土)、軽く手で押さえ(鎮圧)、水やりをします。
 この後、種をまいたへこみを除いた全体に枯れ葉や枯れ草をごく薄く敷き、乾燥を防ぎます。
 4~5日で発芽するので、本葉が3~4枚になったら2本に間引き、本葉5~6枚で1本立ちにします。間引きははさみを使い地際から切り取ります。
 コンテナ栽培では畑で育てるほど草丈は伸びませんが、倒れたり傾いたりしないように長さ1mほどの支柱をそれぞれに立て、支柱同士を横に連結し倒れないようにします。
 オクラは肥料を多く必要とし、収穫も長期にわたるため、肥培管理が重要です。追肥は、最終間引きどきと花が咲きだしてから2週間に1回の割合で行います。4株当たりぼかし肥料20gをコンテナの縁に沿って株の両側に均等に施します。水やりは生育が旺盛な真夏にはほぼ毎日になります。
 枯れ上がった下葉は早めにはさみで切り取り、収穫は果実の長さ8cmを目安に若取りすることで、木への負担が少なくなり実付きが良くなります。

福沢諭吉と米

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国士舘大学21世紀アジア学部教授 ●原田信男

 幕末に3度、幕府の遣外使節に随行して欧米を見て回った福沢諭吉は、当時きっての開明派で日本の旧習を嫌い、西洋文明の利点を吸収すべき旨を唱え続けました。すでに慶応2(1866)年に『西洋事情』を著し、欧米の政治・経済などの事情を紹介し、翌年には『西洋衣食住』を刊行して、食器などの日常生活用品を図解して、簡単な解説を加えています。
 実際の食生活においても、明治3年に腸チフスにかかった諭吉は、体力回復のため築地牛馬会社の牛乳を服用していました。そして快癒後には、同社の要請に応じて、広告文「肉食の説」を書き、牛乳や牛肉は穢(けが)れたものではなく、体に有効であることを強調しています。さらに翌4年には、西洋料理千里軒の開店披露文を書き、肉食の効用を説いています。
 こうした考えを諭吉は自ら主宰する日刊新聞『時事新報』の社説で、しばしば繰り返しました。まず明治15年12月15日には、「肉食せざるべからず」を書いて、栄養学的観点から肉食の普及を説きました。そして肉食の対極にあった米については、翌16年5月1・2日に「農業を論ず」を執筆し、日本では古来、瑞穂(みずほ)の国と称して稲作に励んできたが、水田開発に努力するよりは、茶や桑を植え、海外貿易に力を入れて農業生産を中心とすべきではないかと述べています。さらに同31年2月23日には「日本の米」で、もともと日本は稲作には不適当な所であるから、不足分は外国米に頼ればよいとしており、翌24日の同欄では、日本人の米食一辺倒を批判し、米よりも肉に重きを置いた西洋的な食生活に改めるべきだと主張しています。
 いかにも開明派の諭吉らしい論説ですが、実際にはタイとウナギが彼の好物で、晩年には和食を好み、時折、洋食を口にする程度だったということです。

2016年3月24日 (木)

国産牛肉、和牛肉、輸入牛肉は、何が違うの?

日本獣医生命科学大学応用生命科学部教授●西村敏英

 日本では焼き肉、すき焼き、肉じゃが、カレーライスなどに使われる牛肉。スーパーマーケットで牛肉を購入する際に、パッケージのラベルを見ると、「国産牛肉」「和牛肉」「交雑牛肉」「輸入牛肉(米国産)」「輸入牛肉(豪州産)」など、表示がいろいろされていますが、どのような違いがあるのでしょうか。
 牛肉は、その牛の品種や肥育場所の違いによって、名称が異なります。「国産牛肉」は、日本での肥育期間が最も長い牛から取られた肉のことで、「和牛肉」「乳用種牛肉」「交雑牛肉」があります。「和牛肉」といえば「黒毛和牛」という印象が強いと思いますが、それは和牛のおよそ90%を占めているのが、黒毛和種だからです。和牛肉は、霜降りがたくさん入っていて、脂肪が多く軟らかい肉です。こくと甘味があるので、すき焼きやしゃぶしゃぶによく使われています。「乳用種牛肉」は、ホルスタイン種の牛の肉で、赤身が多い肉です。「和牛肉」と比べて、脂肪が少なく、健康志向の人には適した牛肉といえるでしょう。「交雑牛肉」は、ホルスタイン種の雌と黒毛和種の雄を交配させて作り出された交雑牛(F1)から取り出された肉で、黒毛和種の牛肉に比べると、霜降りの割合は低いものの、軟らかいのが特徴です。高齢者にも食べやすいお肉です。
 「輸入牛肉」は、米国や豪州で肥育されたヘレフォード種やアバディーンアンガス種などが中心です。米国産の牛は濃厚飼料で肥育されますが、豪州産の牛はグラスフェッドと呼ばれ、牧草で肥育されることから、同じ輸入牛肉でも、豪州産牛肉には、米国産牛肉にはない牧草の風味があるなど、味わいには大きな違いがあります。料理によって使う肉を選んで、味わいの違いを楽しんでください。

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西村 敏英(にしむら としひで) 農学博士。著書に『最新畜産物利用学』『食品の保健機能と生理学』などがある。 2003年日本家禽学会技術賞受賞、2004年日本農芸化学会英文誌優秀論文賞受賞。

有機栽培の基本は土づくり~手軽にできる有機ベランダ栽培

明治大学特任教授●佐倉朗夫

 無農薬、無化学肥料栽培を有機栽培と考える人が多いと思いますが、それは入り口にすぎません。生物の多様性と物質の循環を基本とし、作物本来の生命力を引き出す栽培です。
 有機栽培の基本は土づくりです。有機栽培で一番苦労するのは病害虫対策だと思いますが、実は土づくりを上手に行えば、被害はさほど大きくなりません。畑が自然生態系の営みの一部として機能し、共生や寄生の関係が複雑化することにより、病害虫だけが極端に増えることがなくなるからです。また、生態系の世界は、生物の種類と個体数が圧倒的に多い土壌中につくられやすく、そこで作物の根が十分に成長すると地上部も健全に育ち、病害虫にも強くなります。その根の成長のためにも土づくりは重要です。
 土づくりは、肥料を与えることではありません。作物の根が育つのに必要な酸素が十分ある状態、作物の生育を助けてくれる微生物が多く集まる環境をつくることです。それによって植物は根を伸ばし、根が伸びることで土を耕します。すると通気性が良くなり微生物も増え、さらに根の成長が促されます。小動物や微生物は有機物を食べ(=分解し)、有機物が分解されてできた栄養分が土に蓄積し土がつくられます。森林の土は耕しもせず、肥料も与えないのに多くの植物が育つのは、このような植物と多様な生物との関係の中で、栄養分が循環しているからです。
 ベランダ菜園ではコンテナ(プランター)を使いますが、幅50~60cm、奥行き20~30cm、深さ30cmくらいあればほとんどの野菜が栽培できます。土は赤土(中粒赤玉土での代用可)、腐葉土を3:2で混ぜ、パーライトを10%加えて作ります。ここから5分の1程度を分け、できるだけ細かく砕いて播(は)種用の土にします。残りにぼかし肥料を土量1Lに対して1g混ぜたものをコンテナの底に敷き詰めた鉢底石の上に入れ、その上に播種用の細かい土を載せます。これで種まき、植え付けの準備は完了です。

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チューリップ

一般財団法人日本気象協会●檜山靖洋

 咲いた、咲いた、チューリップの花が。春らんまん、チューリップが咲く季節になりました。チューリップといえば、富山県が有名で、チューリップ祭りも行われます。全国の気象台では、さまざまな植物の開花を観測していますが、チューリップの開花を観測しているのは富山の気象台だけです。
 チューリップは暖かいと花が開きます。気温が10度を超えると開き始め、暖かくなるに連れて花を広げ、20度くらいになると大きく開きます。花が大きく開いているときは、気温が20度くらいまで上がったと分かり、花が閉じてきたら10度以下まで下がってきたと判断することもできますね。いわば自然の温度計です。
 そんなチューリップを見にピクニックに出掛けるのも、この時期ならではの楽しみですね。
 お弁当には、鶏のチューリップ唐揚げを持って行きましょう。

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2016年2月24日 (水)

うれしさとつらさの春~お天気カレンダー

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一般財団法人日本気象協会●檜山靖洋

 暖かい地方から順番に桜の開花の便りも届く季節です。桜の開花の便りは、うれしいニュースと感じる人が多いでしょう。そして、昔と比べて桜の開花はやや早まっていて、九州から関東では3月中にお花見という地域も多いですね。
 楽しいお花見ですが、ちょうどこの時期、スギやヒノキの花粉が飛ぶ時期とも重なります。花粉症の症状がひどい人にとっては、お花見はしたいけど、外にいるのはつらいと思います。そのスギ花粉の飛ぶ量は、前の年の夏の気温と関係があります。暑い夏の後は花粉が多くなる傾向があります。2015年の夏は、北日本で暑く、東日本や西日本は平年並みか冷夏気味の所が多くなりました。
 日本気象協会の予想では、2016年の春は、東北で花粉が例年よりやや多く、その他は例年より少なめになりそうです。花粉症が少しでも楽になるといいですね。

健康と美容にお肉を食べよう~お肉を食べて健康に!

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日本獣医生命科学大学応用生命科学部教授●西村敏英

 体の健康維持と美容の面から、毎日の食事で筋肉量やコラーゲンを保つ良質なタンパク質をたくさん含んでいるお肉を食べることが大切です。中高年、高齢者の場合、加齢とともに筋肉が落ち、皮膚や毛髪、血液などの新陳代謝や血圧などを調整する機能も低下してくるので、それらの低下を予防し、健康を維持するためには、なおさら必要です。
 食べ物に含まれるタンパク質が良質かどうかは、体内では作れない9種類の必須アミノ酸のバランス(アミノ酸スコア)から評価されます。アミノ酸スコアが100に近いと、そのタンパク質は消化吸収された後、体内タンパク質に取り込まれ、効率的に利用されます。豚肉をはじめとする食肉のタンパク質のアミノ酸スコアは、100であり、良質なタンパク質といえます。一方、ほとんどの植物性食品のタンパク質のアミノ酸スコアは100より小さく、必須アミノ酸のバランスにばらつきがあります。このような理由から、植物性食品だけの食事では、健康維持に良くないので、お肉も一緒に食べることが大事なのです。
 特に女性は筋肉量が減りがちで、筋肉量が減ると代謝が落ちて太りやすくなりますから、タンパク質を小まめに取ることが必要です。また、お肉のタンパク質には、肌の張りを保つコラーゲンも含まれています。代謝が落ちると、肌のターンオーバーも滞るので、タンパク質不足は、美容の大敵でもあります。
 お肉は、良質のタンパク質、ミネラルを供給する大切な食品ですが、最近、脳の健康維持、脂肪燃焼促進作用、鉄欠乏性貧血予防、LDLコレステロール低下作用、抗酸化作用、血圧降下作用など、病気を予防する効果があることも分かってきました。
 さらに、おいしいお肉を食べたときの満足感も健康維持にはとても大切です。食べ過ぎに注意し、バランスの良い食生活を心掛けましょう。

西村敏英(にしむら としひで) 農学博士。著書に『最新畜産物利用学』『食品の保健機能と生理学』などがある。 2003年日本家禽学会技術賞受賞、2004年日本農芸化学会英文誌優秀論文賞受賞。